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ノア

Noahノアは動物たちの世話をする心優しい善良な人だったのだろうか?
天からの言葉を信じて巨大な船を造り家族とともに大厄災を乗り切って、新世界の人間の祖となった人だったのだろうか?

旧約聖書に書かれたさまざまなイベントの中でも一、二を争うスペクタクル、「ノアの方舟」。これほど周知の物語がほとんど映画化されていないというのは、欧米人のメンタルに強い影響を持つキリスト教への憚りがどこかにあるからなんでしょうか。

唯一覚えているのがジョン・ヒューストン監督「天地創造」the Bible(その名もズバリ、聖書)。東京オリンピックの入場行進曲を作った黛敏郎が音楽を担当して当時有名になりました。劇場で見たことを覚えています。どうしてもそれと比較してしまいそうで……
半世紀以上前の映画と比較してあれこれいうのも的外れですね。まあそういう映画もあったんだということでお茶を濁しておきます。

さて、もともと非現実的で不合理な物語なのですが(この際バチあたりな文言が出てきますが異教徒の戯言として許されてください!)不合理なりに合理的に処理している、笑っちゃうような苦し紛れ設定が多々あります。

ネタバレがお好きでない方は以下ご注意ください。少し空けますね。








始めのうち見ていると何やら既視感が湧いてきます。
たとえば巨大な方舟を作るのには重機もないし、とてもノアの家族だけでは無理。そこで助っ人として現れたのが"Watcher"。最初のテロップで説明があって、ウオッチャーとはアダムとイヴがエデンの園から追放されたときに楽園の入り口に炎の剣を持って置かれたケルビムのことらしい。彼らをウオッチャーと呼び、しかも彼らは創造主に背いて人のシンパになったためにやはり天から追放された堕天使だという設定。
何やらミルトンの失楽園のルシファ―やギリシア神話のプロメテウスのイメージが混在した性格です。

彼らが呪われた奇怪な姿で歩き回る様や、彼らが人間の迫害にあうのを食い止めたノアの曽祖父、メトセラ(長寿で有名なあの人!)が剣の一撃で炎の結界を呼び出すさまなど……絵が "Lord of the Rings” に似てる!
開始早々ウオッチャーなる奇怪な姿の石のゴーレムが出てきて度肝を抜かれるのですが、彼らの存在を平然と受け止めている世界観がどうしても旧約聖書のそれと一致しない ……無理にさせないでいいんですけどね。
でも、どうしても違和感がぬぐえません。

これが2010年代の映画なのだと思いました。素早い展開、目を見張るような映像、刺激的なシーンがなければ観客の興味をつなぎとめられないのか、と思うとちょっと寂しい気持ちもします。

興味深かったのは聖書の物語をベースにしながら一度のも"神――God"の言及がなかったことです。神という2000年以上の歴史を背負ったイメージではなく、"Creator" 創造主、造物主という言葉での言及、呼びかけに徹底していました。この映画が、単に聖書の記述の映像化ではないと暗に示そうとしているのかもしれないと、ここはちょっと好意的に見ました。

ありとあらゆる鳥、動物、爬虫類、両生類、昆虫が集まってくるシーンはすべてCGだそうですが、見応えあります。そのすべてが現存の生物とは少し異なった外見を持っているように作ってあるそうですが(IMDb)これはDVDで一時停止しながら見極めるしかないようです。
またそれほど多くの生き物を限られたスペースに収容するのにこれまた合理的処理が。恒星間移住をする巨大宇宙船の中で冷凍睡眠をする、あのアイディアが使われているのににやり。
でも、ファンタジー路線で行くのか聖書再現で行くのか、現実的解釈を突き詰めるのか、なんとも一貫性のなさが却って映画から深刻さを削いでいくようで残念。

ラッシー演じるノアは創造主から明確な指示を得たわけではなく、あくまで夢や幻覚で見たイメージに自分で解釈を試みます。ただ、それが妄想でない証に、曽祖父メトセラからもらったエデンの園の種を蒔くと、乾いた不毛の土地から水が吹き出しみるみる森が生育します。こういう超自然現象が起きて家族もウオッチャーもノアの言葉の信憑性を認めます。このシーンも見ようによっては、奇跡というよりファンタジーの色の方が濃いような。。
不毛の土地から水が吹き出すシーンは、ヒューストン監督の「天地創造」でアブラハムの妾の子、イシュマエルが母と追放されて砂漠をさまよい、力尽きそうになったときに天使(ピーター・オトゥールだった!)が現れ、砂の中から水が噴き出す印象的なシーンがあったのですが、それへのオマージュではないかと思うのですが、どうかな。

いよいよ大洪水が起こり方舟へ殺到する人々、それを食い止めようとするウオッチャーたちの戦いを見ているとどうしてもまた違和感を持ってしまいます。
創造主はすべての人間を滅ぼして世界をリセットすることに決めたのだろうけれど、シェルターを求めて必死で駆け寄る人々を群がる虫か何かのように踏み潰し叩き潰している人ならぬ存在、ウオッチャー。方舟を守るためのやむを得ないと防御行為だという逡巡もなく、見ようによっては「嬉々として」人々を駆除して、最後には多勢に押し倒されて槍を刺されて胸をこじ開けられ、犠牲となる行為と引き換えに天に戻ることができた彼らの運命は、最初から綿密に計画されていたもののようにさえ思われてしまいます。

ノアの自分が受けた啓示に対する解釈も中盤から大きく変化して、単に悪に染まった世界をリセットすることにとどまらず、新たに作られる世界に人間の残る余地はないと確信していることが明らかになります。
この展開はちょっと予想外でおどろきでしたが、そこでやっと長男の妻イラが石女であったことや次男三男には妻となる女性がいないことに整合性が出てきました。
なんというか、とても現代的な想念だと思います。わずかにここ1,2世紀で地球環境はかつてないほどに劣悪なものとなりましたが、これすべて人間の営為が招いた結果であるといわれます。人間さえいなければ……楽園の実現は可能だ、という極端な想定。なんとも厭世的で悲観的な考え方ですが、すべての地上の生き物を絶滅させるという造物主の無慈悲さを目の当たりにしたノアには、その断罪の最後の仕上げを自分に課すことで、死んでいった悪ではない人々への贖罪をしようと自らを追い込んでいったのではないかとも、後からですが思い当りました。
子孫となるべき子供を逃したと思った時に「彼らは無意味に死んだ」と叫びました。ああ、やはりなあと。ノアは生き残ったことに絶望的ともいう罪悪感を抱いていたんだと。

現代、もしくは近未来的に感じたのは彼らのコスチュームが没時代性だった点も挙げられます。ジーンズにジャケットとも見える衣装。どこにでもありそうで、実はなさそうな景色。最初に大写しになる手負いの獣が現実にはいない架空の動物だったことなど、どこか別の惑星上の話といっても通じるような気がしました。これも演出のひとつかな。

ラッシ―と相性のいいジェニファー・コネリー、パーシー・ジャクソンをやったローガン・ラーマン、ハーマイオニーのエマ・ワトソン、みんな好演でした。ローガンくんは中ごろまで彼と気づかなくて。鬱屈した若者やってましたから。

以下IMDbで拾ってきたトリビアを少し。

監督ダレン・アロノフスキーによるとウオッチャーのデザインは3つのものからヒントを得ているとのこと。6つの翼をもつ天使セラフィム、流出オイルにまみれた海鳥、足に重りをつけられたバレイ・ダンサー。その姿は地上に捕えられ姿を貶められた天使のようなもの、翼を固められて歩く際に手足として翼を使うことを余儀なくされたもの、だそうです。

監督は子供の頃からノアという人物に惹かれていました。生存者であることの罪悪感を生々しく感じていた暗く屈折した性格の男という姿です。

エマ・ワトソンによれば、映画の設定は曖昧だった。どの時代といっても通じた。何千年も未来にもなりえたし、反対に何千年も過去であるともいえたそうです。だからあまり重きを置いて考えない方がいいだろうと。

今まで描かれたノアの方舟は丸くカーブした船の姿をしているが、多くの歴史家は、方舟は実際に箱の形をしていたと指摘している、それがこの映画で採用された。「方舟」と訳されるヘブライ語は字義どおりには「収納箱」の意味で舳とかの構造上の造作については何も述べられていない。方舟は単に水に浮くことを目的として作られているのだからそのような物をつけ加えるのは的外れと言えよう。

以上取り留めなく思いつくまま書きました。もう少しピントを絞った書き方ができたらよかったですね。

Comments

これ、映画館に行く度エマが「ハ〜イ」と宣伝してて、スペクタクルなんだろうけど、イマイチ観に行く気がしないなあ、と思っていたのですが、Helvaさんの感想を読んで行きたくなりました!

それこそ、聖書を読んだこともなく、ノアの方舟のことも大まかにしか知らないし、見ていてピンとこないだろうなあと思っていたんですが、ちゃんとエンタメになっているんですね。

ファンタジーと宗教観の合間でどっち付かずになるってのは、全世界に向けての興行の為に仕方ないかなと思うのですが、全体の評価としてどうなんでしょうね。
最後は「自然を破壊し続ける人類への警鐘」となるんでしょうが、映画を見なくてもオチがわかってしまうというのも、ネックかも。

それよりなによりわたしにとっては、そっか、ローガン君でてるんだ〜じゃあ見ようかなあという、かなりミーハーな動機が一番に来たりして。

>onionさん

聖書物語だと思わなければ大変面白いエンタメ映画になっています。見る価値ありまっせ。
エマちゃんの番宣は知りませんが(トムちんのならいつも見てるw)彼女も大人になって演技していました!
子どもが産まれそうになったときに"Please keep it inside!" って叫ぶんですがちと笑ってしまいました。もちろんストーリーの流れでのことですが、それでも。
ローガン君、真面目で内省的でそれでいて熱い、いい若者やってました。

うーん、言われるようにノアの箱船を描いた映画は、地面が割れるシーンがあった天地創造しか知らないけど、それよりおもしろかった?あれはずいぶん昔だったから今だともっと迫力あるんだろうな。

>Keiさん

こんばんは。かなり昔の映画ですけどw
地面が割れるシーンってのは、ちょっと覚えていません。もっと前のヘストンの十戒では紅海が割れましたけどね!
昔のスペクタクル映画は今のCGにはない特別なわくわく感がありました。もちろん、こっちの感性の問題かも。

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