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究極〇〇小説「みずは無間」(〇のところはご自由に)

Mizuha
Amazonの「こんな本も……」の甘言に載せられてふらふらと読んでしまった一冊。
外宇宙探査機に搭載された人格転写AIの「ぼく」の一人語りです。
この手の小説は自分の頭ではもう容量外かと思ったのだけれど読み出すとある意味ぐいぐい惹かれます。バイオレントにしてスプラッタ、と言っても血潮も飛ばないし大爆発も起きないのだけれど。
太陽系を離れて果てのない旅に出た「ぼく」が何百年もの旅のさなかに脈絡なしに思い出すのが付き合っていた女子大生の「みずは」。AI化される前の二人の会話がそのまま生の形でよみがえります。甘いもの好きのみずは、一人でいられないみずは、意志薄弱なくせに自己主張の強いみずは。
一方現実の「ぼく」は自己の筐体改造と記憶容量の増大に努め、有り余る時間を持て余して作り出して宇宙に放った情報知性体のプロトタイプ、さまざまな系の自分をコヒーレンス、デコヒーレンスしてスナップショット状の自己を分離して放出、それでも「みずは」の記憶を固持しつづける「ぼく」。依存症で過食症のみずはが求める物はぼくの情報への渇望とリエゾンしていきます。

読みやすいとは言えないのに(その咀嚼しにくい用語とともに)どうしても話の先が知りたくなる力があります。
たくさんの思考モデルを提供してくれていてトンデモ話なのに楽しい幻惑に酔わされます。
たとえば……人類の末裔の姿をこのように。ちょっと長いけど引用します。
―――あくまでも伝統的なウエットウエアのまま遺伝学的に不自然でない一生を送る者、薬学的遺伝学的ナノレベル解剖学的な魔改造の末に理論的には不死を勝ち得たと思っている者、……機械仕掛け主義者、物理的身体を捨て去ったアップロードたち、アップロードを際限なくコピーして次々に培養ウエットウェアやマシンウェアにダウンロードする転生ジャンキー……地球生命の本質は何ら変わらない。……いきあたりばったりの生存戦略。無造作な繁殖。……そして悪食暴食。

後半になってある事実がわかってからは物語は「セカイ系」から肥大化した情報を餓える宇宙の変容にまで広がる恐ろしい領域に足を踏み入れていきます。しかもループして。
なんだかようわからんままに読み終わってしまいましたが、思考実験小説としておすすめです !
卑近なたとえとして思いついたのが、今向かっているわがPC。
情報の肥大とはよく言ったものです。一旦ため込んだ情報は減ることはなく、ただ増大の一歩をたどっています。使うあてもなく、かといって永劫に使わないとは言い切れないと、何かの時のために取っておく。または単なるずぼらで整理を怠っている。またはデジタルであるがゆえに消えてしまうことを恐れて重複して保存しておく、あれやこれや。疾うの昔にもはや時代遅れとなってしまったものも捨てきれずにとっておくセンチメント、思い付きの名をつけたフォルダーとファイルの複数の階層に埋もれたアーカイブ、それは名ばかりで作ったそばから忘却の中へ。アナログ時代でいうなら手紙類、雑誌の切り抜き、シール、付録なんかを後生大事にとっておいたあの箱というところか。
情報への餓えでしょうか、失くすことへの恐れでしょうか、なんだか人類の変容はもう始まっているのかもしれないと、ちょっとぞっとするホラー風味の後味がしています。