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洋菓子 vs 和菓子

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洋菓子の巻
これまたおいしい小説群です。
上田早夕里 「ショコラティエの勲章」(画像は昨日の記事に)
ここに挙げた2作(ラ・パティスリー、菓子フェスの庭)は「ショコラティエの勲章」とは別の流れのストーリーですが、時系列的にはパティスリーが先行、間にショコラティエが入って菓子フェスがパティスリーの後日譚になります。登場人物もお互いに顔を出しますし、同時に二つの洋菓子店でお話が進行している構成だと理解しています。

「ショコラティエの勲章」は一人称語りで、神戸で和菓子店の販売をしているあかりさんが近くにできたショコラトリーに評判のショコラを買いにいくことから始まります。ちょっとした事件が起こり知り合いになったシェフの長峰さんとショコラを挟んでさまざまな人生にほんの少し触れて、ほんの少し何か影響を与えたり、何かをもらったりしていく物語です。

昨日のあんちゃんのお話に比べればもう少し深刻で人生の機微に立ち入った語り口です。ショコラという甘くてほろ苦い素材から連想されるように人生の幸福、喜び、楽しい思い出とともに哀感やかなえられなかった願いや時の経過を経てまろやかに熟した人間関係など、繊細な筆致で描かれます。

しかし、何よりもこの本を生き生きとさせているもの、しばらく経つとまた手に取って読みたくさせるもの、それはお菓子のおいしい描写です。ショコラ、ガレット・デ・ロワ、アイスクリーム、ブリュレ、ガトー・ショコラ、マカロン、ムース、オペラ……どれもが食べてみたいと切に思うような読むおいしさです。微妙な風味や隠し味、美しい形、香り、どれもどうしようもないほど刺激的です。

物語の最後にそれとなく示されたのは、万人においしいお菓子はなく、食べる人それぞれの「味」に対する経験がおいしさを感じさせるのだということ。だからシェフの長峰さんはその都度食べる人の事情に合わせた特別のお菓子を作る。単に好みという段階にとどまらず、相手がお菓子の味に何を求めているのかを推し量りながら。それが彼の卓越した腕に裏打ちされた職人としてのこだわりであり、常に追い求めるべき自分の菓子作りに課した目標なのだなあということが何となくわかってきます。
あかりさんはそういう長峰さんを敬意をもって見つめ、年末の夜に落ちてきた雪をショコラティエに捧げる勲章だと心の中で思うのです。

和菓子、洋菓子ともに命をつなぐ主食から一歩引いた控えめなところにいるからこそ、こんなにゆとりのあるおいしさを標榜できるのでしょうね。
願わくば、こちとらもショーケースの中の素敵にきれいなケーキや宝石みたいなショコラや、はんなりぽったりとした上生菓子を見て「わ、高っ!」などと下賤な感想を漏らさずにゆったりといただいて味を楽しめるだけのゆとりを持ちたいものです。

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