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13号列車の謎 2

承前

「機関士と火夫を別にして、そのとき列車は無人だったのですか?」
「いや、ホームズさん。これは鉄道の慣習で、うちの列車には護衛が一人付くことになっとります。わたしもこの慣習には喜んで従っとりました。委託貨物には運送中にずっと見張りがつくということで、このために委託の荷はすべての鉄製容器に入れて最後尾の列車に積むことにしました。つまり13号車ですわな。これで護衛は積み荷から目を離さずにいられるというわけです。この仕事のために雇われたのがジョン・ライアンズという経験のある信用できる鉄道会社の職員です」
ここで不思議なことにマスターソンは言い淀んでふっと笑った。
「あー、彼はフランスの鉄道で働いたことがあるか聞きたいもんですな。ほら、護衛のライアン(guard Lyons)って……リヨン駅(Gare de Lyon)と音がそっくりじゃありませんか」
ホームズは礼を失しないように笑ってうなずいた。
「すみませんな、方々。どうか大目に見てください。洒落の魅力には勝てないんですわ。さ、続けましょう。列車は予定通りに今朝3時にブリストルを出発しました。それがパディントンへ着くまでに6つの鉄製の金塊の箱が消えちまったんです。ホームズさん、これはまったく考えられない窃盗だ。列車は水補給のために一度だけ数分間停車しただけです。この時間じゃ金塊の箱を一つだって下せやしません。あの何百ポンドもするやっかいな代物です。たったひとつだって150ポンドの重さはあるのに」
「それで護衛は?」ホームズは訊いた。
「ライアンズの申し立てでは、行程のどこかで眠り込んでしまって目が覚めたら金塊が消えていたというんです。彼と機関手、火夫をパディントンに留め置いていますが、全員が強く身の潔白を訴えています」

「他の容疑者を考えてみたい。あなたの会社でだれかこれで利益を得る立場にある者を思いつきますか?」
マスターソンは口元を引き締め、戸惑っているように見えた。
「ここだけの話しにしていただきたいのだが、別居中の妻ローラは今でもかなりの会社の株を保有しとります。持ち分はもっとたくさんにならないといけない思っているようです。ああ……この件に関してはいささかつらいものがあります。しかし、ローラのことはよくわかっています。あれが盗みを働くとは絶対に思えません」

「ありがとう、マスターソンさん。確かにこの件お引き受けしましょう」ホームズは簡潔に言った。「よろしければブリストルに電報を打ってドクター・ワトソンとわたしがあちらに向かう旨お知らせ願えませんか?」
「わかりました、いたします……ということは今日あちらへ行かれるということですか?」
「その通り。パディントン駅でひとつ調べ事を済ませたらすぐに」
「おお、それはありがたいことです。この悪運号の一件を任せられる人はあんたを置いては他にはありませんや。だってほら完璧な鍵のホームズ氏―――sheer lock holmesっていうんだから!はっは!」
ホームズは今度は笑わなかった。
「マスターソンさん、わたしは物事を偶然に任せるということは決してしません。合理的推理と理性がわたしの使う道具です」
「お許しを、ホームズさん。さっきも言ったようにどうしても駄じゃれの魅力に逆らえないんで」
「進展があればすべてご連絡しましょう」とホームズは打ち切った。

30分もかからずにわたしたちはパディントン駅へついた。しかしブリストル行の列車に乗る前にホームズは件の『悪運号』がちゃんと保全されているか確めることを優先した。列車は引き込み線に移されていた。
   警察の担当者がたまたまスタンリー・ホプキンス警部補だったことで一つ安堵を覚えた。彼は若いがなかなか野心にあふれた刑事でホームズとわたしは以前にいくつも一緒に事件の解決にあたったことがあった。マスターソンからわたしたちがこの事件の調査にかかわることを聞いて、ホプキンスはわたしたちがロンドンに戻るまでこの列車に誰も手を触れないように見張っていることを了承してくれた。

ブリストルに到着した時もまだ雨が降っていた。駅の主任のジョージ・ウィリスは50代の愛想のいい男で、この職を一生の仕事としていることに満足しているという好印象を受けた。しかも仕事についてはすべてに通暁している。
ウィリスは昨晩も勤務についていたので直接にわたしたちを金塊を運搬した列車が出た貨物用プラットホームまで連れて行ってくれた。彼は捜査のために力添えの労は惜しまなかったものの、ひどく疲れているように見えた。
「方々、お見苦しい姿をしていますがお許しください」ウィリスは言った。「昨夜は夜勤で臨時列車を送り出したあと上がろうとしたときにロンドンから窃盗の報せが届いたもので、それ以来寝ていないんです」
「長くはお引きとめしませんよ、ウィリスさん」ホームズは言った。「金塊の箱が積まれたときにここにいたということですね」
「おりました。わたしが自分で指図しました。まさにこの場所から警備車両への積み込みを見ていました。そのあと残りの車両を引きこむように合図をだしました」
「警備車両は荷の積み込みが終わるまでは他の車両と連結してなかったんですね?」
「その通りです。残りの車両は側線で待機させていて出発の直前に連結したんです」
「本線に引き入れたのは?」
「機関士のトミー・マリアットと火夫のパット・マクレンシー」
「熟練者ですか?」
「ホームズさん、自分の手足とまではいかないけれどここ10年はずっといっしょに仕事をしてきて何もかも知り合った仲です。どちらもまっとうな男たちです」
「結構。もう少し我慢してお付き合いしてもらいましょう。金そのものについてもう少し。荷積みに直接かかわったのは何人ですか?」
「あれは……ひとつの箱を積むのに4人必要でした。二人が中に乗り、二人が外から。あのくそ重たい箱、こりゃ失礼、ひとつが100ポンド以上もあるもんであのくそ狭いドアから無理に入れるんですから、それはもうなんともいまいましい仕事でした」
「積み込みを完全に終えるまでにどれくらいかかりましたか?」
「仕事にかかったのが12時半ころで、終わったのが2時15分前だから……おおよそ80分くらいでしょうか」
「では荷積みがおわってから出発までに遅れはありましたか?」
「いいえ、ありませんとも。サイレンを鳴らして残りの列車をバックさせて引き込み、護衛のライアンズが乗車。そのあと金塊の乗った車両は指定通り外から施錠しました」

「ウィリスくん、よければ最後の質問を。列車は途中で一度止まったと聞いているが―――」
「そのとおりです。最初から水補給のために短時間スィンドンへ停車するように予定されていました」
「それ以上長く止まっていたということも、ほかの場所で止まったということもないのですね?」
「いいえ、ありません。もし一分以上も遅れが出るなら信号手が気づくはずです、そこはもう確めました」

ホームズはしばし考え込んでいるようだった。これらすべての情報を考え併せたのちに口を開いた。
「ウィリスくん、詳しい話をありがとう。きみの記憶には曖昧な点は無いようだ。では、われわれはこれで失礼しよう。ドクター・ワトソンとわたしは次の汽車でロンドンへ戻ることにする。きみは家へ帰ってぐっすり眠りたまえ」


時間が空いてしまいましたが、バッド・ラック・スペシャルこと13号悪運列車の続きです。列車を使ったミステリはホームズ正典でもおなじみです。新しくはクリスティも幾度も列車内で起こるありえない事件を書いています。列車という密室、しかも限られた時間の中で行われる一見すると不可能ともいえる犯罪は、行う方も、その不可能さを切り崩して謎解きをしていく方も描写は実にエキサイティングです。
スティームパンクではないのですが、この擬古的なホームズものへのオマージュをこめたパスティーシュの雰囲気にちょっとうっとりとなってしまいます。
では続きはまた近日中に。

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Comments

面白くなってきましたね〜ってか、この駄洒落おっさんw
ホームズの逆鱗に触れなきゃいいんですが。。。

イギリスにはまだクラシックな列車を走らせるためだけの線路があるらしくて(そういう愛好会がもっているとか)、ドラマや映画でよく見られるだけに、思い浮かびやすくてワクワクしますね!
また続き、待ってます!

>onionさん

駄じゃれってうまく日本語になってくれればいいんですが発音上のだじゃれはどうしようもなくってw
その点シャーロック2の1で正典のオマージュとしていくつか事件が挙げてあったのは上手でした!
このおっさんの駄じゃれが結構事件解決の鍵になったりします……あわわ汗!

ウーン、すばらしい!
贋作ものも見つける度に購入してたけど
これはチョット良いのではないか。。と期待させること十分。続きを楽しみにしています。

オヤジギャグにホームズ先生が冷たい視線を送っている姿が目に浮かぶようですね…

ホームズファンクラブ会員のホプキンス警部が登場してくれて嬉しいです!

>Keiさん

もともとオーディオブックなのでドラマ形式でできているので読み物としては物足りないかもしれませんね。
カンバーバッチくんの朗読CDを聞きながらご覧になると雰囲気がよくわかるかも。
youtubeでも試聴できます!
http://www.youtube.com/watch?v=tjw60OLj26w
あ、これは第一話、不可解なる変装の方かな。

>Chikoさん

お久です~
ホプキンスくん、警部ですよね、でも読みでは警部補なのでそうしています。
ちょっとホームズとホプキンスの会話の部分でどちらの台詞かわかりにくいところがあります。微妙な差があるんだけど。。

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