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みんなでお茶を

Mother

気になることがあるとしばらくそれにこだわって考え続けるのに、解決がつかないといつしか忘れてしまうって、これいつものことですね。
でも完全に忘れてしまったのではなく、意識下では事あれば表面に現れようとスタンバイしているようです。スリープ状態。だからちょっとした刺激でアクティブ状態にさっと戻ってきて同じ状態からリジュームする、誰も思い当ることがあるでしょう。

写真は二日ほど前に届いた"SHERLOCKシーズン2"の一場面のキャプチャです。
少し説明をば。
普段からよく映画を見ますが基本、言語は英語日本語字幕で見ます。耳から入る英語と字幕の間に大きな差がないときにはほとんど意識せずに視聴しています。(というか、それほど気にしないで見てますというべきか)
まれに英語字幕を出して日本語字幕の意味を補完したりもします。その映画が気に入ったときと、それと字幕と話されているセリフとの意味がそぐわないときや文脈上意味がよくつながらないときに実際に話されていることを確認するためにです。

このシーンですがNHKで放映されたときマイクロフトとシャーロックの吹き替えがこうだったのです。(言葉は完全に正確ではないかも)
M: 「母親がわりだったんだよ」
S: 「子供時代からいろいろあったんだ」

最初に見たときから違和感があってどうも腑に落ちませんでした。ひとつにはマイクロフトの原語と字幕の時制が合わない、それを満足させる説明がない、つまり自分の中ではどうにも納得できなかったからです。

BBCのDVDによれば実際のセリフはこうです。(キャプチャでは字幕が保存されないのでアナログにカメラで撮ってみました)

Telop1

M: I'll be mother.  (わたしが母親になろう)
間違いなく助動詞willがあります。過去のことを語るのにwillを用いることは(知っている限りは)あり得ません。ぐっと譲っても言えるのは現在の習性「~そういうものだ」くらいしかないし。
どう考えてもマイクロフトはこれから先のことを言っているはずです。
しかも mother の前に冠詞がないことも気になる一因でした。

さらにシーズン1の1話でマイクロフト、シャーロック兄弟の母は健在でクリスマスには家族が集まる、マイクロフトに至ってはシャーロックがいつも不機嫌だからmammy(幼児語、日本でいえばママくらいかな)が悲しむといっていますから、母親が早くに亡くなって「母親代わり」だった、という解釈は矛盾します。
かといって二人の母親が母親らしいことを何もしない女性で、年長のマイクロフトが家事を取り仕切っていたという新解釈も不自然です。このようなわけでこの部分は、奥歯に物が挟まったようにずっとずっと気になっていたところでした。

Telop7

こちらはメリル・ストリープの"The Iron Lady"突然にすべてが明らかになりました。
開始後1時間12分ころ、フォークランド紛争で出兵するか否か決断を迫られるサッチャー首相のもとへアメリカ国務長官が訪れて出兵を見合わせるように説得する場面で、きっぱりと断ったサッチャーがそばのテーブルにあるティーポットに手を伸ばしこう言います。

"Now, shall I be mother?"  (じゃあ、おかあさんになりましょうか?)
字幕には、「母親役を務めますわ」と。

これで明らかです。お茶を注ぐという動作と"mother"の組み合わせ、どうして気がつかなかったのか。もっと早く気づくべきでした。
おままごとをするときにお父さん役、お母さん役というのがありますよね。あれなんです、つまりイギリスの一般家庭ではティーを注ぐのはお母さんなんです。だからお茶を注ぐときには、私がお母さんをやります、みたいな言い方をするのだということだったのです。
それを「母親代わり」の吹き替えに無意識に引きずられて、それに見合う解釈ができないことで散々頭を悩ましていたというわけでした。

するとその後の展開もよどみなく流れます。
Telop5

マイクロフトの言葉につづくシャーロックの"And there is a whole childhood in a nutshell."も直訳すれば、「ここに子供時代のすべてを端的に表すものがある」―――「子供のころからすべてこの調子だ」となり、すべからく自分が采配を振りたがるマイクロフトのやり方を揶揄する皮肉な物言となるのです。

改めて届いたばかりのBDでその箇所を確認すると、マイクロフトの"mother"から一連の字幕は次のようになっていました。
M: 「わたしが注ぐ」
S: 「子供の頃から仕切り屋だ」
はい、おめでとうございます、一件落着でした。

セリフついでにもう一つ。BBC版の英語字幕を出してみていたときに気がついたことですが、まずはその部分を。
Telop6

M: Don't be alarmed. It's to do with sex.
S: Sex doesn't alarm me.
M: How would you know?

アイリーン・アドラーの説明をしているマイクロフトとシャーロックのやり取り。思わずうなったのが最後のマイクロフトのwouldの使い方。
NHK吹き替えでは「どうしてわかる?」、BD版では「知らないくせに」でした。
これはNHKに分があるように思えます。
マイクロフトは女性(男性も)に関しては晩生のシャーロックをからかい気味に「セックスと聞いても(経験がないからといって)警報が鳴ったように身構えなくてもいい」と言い、すぐさまシャーロックが「セックスが絡んでも全く平気の平左だ」とやり返す。それに対してさらにwouldで「どのようにして恐れるに足らずということがわかるのかね、知りたいと思っても知る機会もなかったの(し、ないだろう)に」と婉曲仮定法を半分だけつかって、シャーロックには現実的にできないことだと、ソフトでかつ「明確に」疑問の形で(ここがまた憎い)投げかけています。にこやかな余裕のある表情だけにマイクロフトのほうがシャーロックよりも一枚も二枚も上手だと知らしめるところだと思います。それだけに意地になって早期解決を確約するシャーロックの青さがまたかわいいのですが。

わたしがゲイティス演じるマイクロフトに惚れたのも、このwould があったからと言っても言い過ぎではないかも。
それにしてもわたしが惚れる人ってどうしていつも……なんなんだろう?
おっと口が滑ってしまったw
今は、かなり長い間意識下でじんわり温めてきた"mother"が自分なりに納得できてうれしい限りです、これこそほんとの"mother complex"だったのかもしれませんね。


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Comments

うあああああ……レベル高い〜〜〜〜英語って奥が深いんですねえ……単語としてはありふれてるのに、文化まで内包してるとは!
そうですか、あの「母親代わり」は、そうだったんですか〜〜え、母親もういない? あれ? とか思ってましたよ。(でも「見ていても理解してない」ワトソン脳のわたし)

また一つトリビアにありついて、余計にSHERLOCKが好きになりそうです!

うわ!私もまさにonionさんのコメント通りHelvaさんの研究に感心してしまいました!
いや~、私もお母さんいないんだっけ?
くらいにしか見てなかった~。
って、Helvaさんの記事を読まなければシャーロックのマイ設定は
母親はいない…でした。
あ~英語がわからないってそういう事なのねえ。
いや、でも、Helvaさんがいてくれて良かった-!!

>onionさん

なんだか疑問が氷解してうれしいです。でもいろいろヒントがありながら考えればもっと早く気がつくべきだったのに、ちょっとがっくりです。
ティーがイギリス人の生活に占める役割って、私たちが考える以上のものがあるんですね。
それにしても太ってないマイクロフト、当たり役ですね。

>マクノスケさん

S1の1の最後で、すわ彼はモリアーティかと思わせておいて実はマイクロフトだったというサービスがありましたよね。
あそこでクリスマスのときは大変なんだ、弟は気難しいからマミーが…、といってジョンが誰のお母さん?と急き込んで聞くとour mother…僕らの母だと二人が声をそろえていうシーンが楽しくて印象的だったので母親代わりに???でした。
サッチャーさんの映画は本当に偶然でした。些細なことだけど一つずつわかってくるとあのドラマの作りこみが凝っていることを楽しめますね!
きっともっと気がついていないことがたくさんあるんでしょうね。

確かNHK吹き替えでは「お母さん役だ」だったので、「ママがお茶を入れるのは万国共通なんだな~」とぼんやり見てましたが、Helvaさんの記事を読んで、そういう決まった言い回しなのだと一つ勉強になりました!
弟さんの「紆余曲折の子供時代だったんだ」もどうしてそれにつながるのかわからなくて、今回字幕版を見てやっと疑問が氷解しました(^^;)

仕切り屋の長男と奔放な末っ子、どんな子供時代だったのかと考えるだけで楽しくなってきますね。

>Chikoさん

そうでしたか。とにかく気になったのが過去時制でした。日本語と比べ物にならないくらいに厳然とした時制の差があるので、どうしてこの訳になるのか不可解でした。
こだわりかもしれませんが自分なりに理解が深まることがひそかな喜びでもあります。
ホームズ兄弟といえば、長男のシェリンフォードについてはほとんど述べられていないのですね。マイクロフトより2歳年長、シャーロックより9歳年上ということになりますが。もし登場していたらどんなキャラになったか想像してみるのも一興ですね!

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