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バスカヴィル家の犬———カンバーバッチによる前書き

The_hound_of_the_baskervilles

三冊目となりました。今回の前書きはSHERLOCKのタイトルロールを演じるベネディクト・カンバーバッチ。
ゲイティスやモファットと世代が違うというか、わたしが彼らの年代に近いので心情に親近感を覚えるだけかもしれませんが、いままでとちょっと変わった雰囲気の語り口です。まるで目の前でベニーが話しているようです。
中にはこりゃなんじゃ?というような箇所がありましたが、前後からおそらくこういうことを言っているのだろうと類推して訳したところもあります。おいおい訂正すべきは訂正するつもりなので、ご愛嬌としてご覧ください。では、始まり始まり。


↓ここから

「ホームズさん、それは巨大な犬の足跡だったんです!」
  すごい一節だ。
  おわり。
  ちょっと待て、ほんとうにぼくに「犬」の前書きをまるまる書かせたいのか?
 (もしこれがミュージカルだったら、いつもの調子でやれるのに。”ハウンド!” ミュージカル…ああ、いい思いつきが… 集中しろ、カンバーバッチ!)

これってマーティン・フリーマンの陰謀じゃないのか? 彼はあのシリーズは遠からず(*シャーロックじゃなくて)"ジョン"と改名さ れるだろうと確信しているんだから。
結局のところ、これはホームズの原作中で一番よく知られていてしかも恐ろしい話だ。それでいて全編15章のうちホームズが出てこな い章が6つもある。なぜなんだ?

あきらかに犬のせいだ! おっとすまない、これはネタバレだった……
しかし、シャーロックなら近場にいるでかい犬について嗅ぎまわることであっさりと正解に達してしまうだろう。そしてぼくらは221B に戻ってゆっくりタンタロスの煉獄(*暖炉のこと)をこじ開け石炭入れからもう一本タバコを取り出す余裕ができるというものだ。
ともかく、マーク・ゲイティスがこうしてはいけないってことはないよね? マークはぼくらのバージョンの犬を書いたし、おまけ犬も飼っているのだから! 名前はブンセン!
マークと(それにブンセン)に対してフェアであるために言っておくが、炎は「そのかっと開けた口から吹き出」さないし、(前の晩 に食べたニシンの臭いにおいを出さなければだが)、目が「熾火のように」光ることもないし、「逆立った毛や垂れたのど」の体の輪 郭が「ちらちらした炎に」包まれているわけでもない。それどころか、ブンセンはごろごろ転がってよだれを垂らしおなかを出して撫 でてくれとせがむのだ。

ぼくはシャーロック・ホームズに関しては晩生だった。3年前にやっと手をつけて今もなお進行中である。今でこそホームズもの を全部読んだが、最初はまったくのど素人で、知り合いだったふたりのホームズのビッグマニアに頼りっきりだった———そう、ス ティーヴン・モファットとマーク・ゲイティスのことだ。世界で一番偉大な(コンサルト嘱託、とはいうが思うにオールラウンドの) 探偵を演じるうえで必要な直感を彼らにリードしてもらった。ぼくにとって幸運だったのは、彼らがはったりじゃなくて本物だったこと、 そしてわが国のトップクラスの脚本家の二人であったことだ。
ぼくは最初から読み始めた。そして「緋色の研究」を読んではたと気がついた。原作はすべてのキャラクターの位置づけのための青写真で、シャーロックを演じる際の天の恵みだったのだ。

ドクター・ワトソンは、職業柄、とても観察眼の鋭い人だ。(ふん、見るには見るが観察しているとは限らないと、ホームズはしばしばワトソンにくぎを刺す)しかし、ページの中でホームズに生き生きした実像を与える人物としてワトソンは申し分なくすばらしいのだ。だから役作りのための読書にいっそう拍車がかかった。この驚くべき物語に関するあらゆるものが加速度的に大好きになっていったように。ホームズ聖典を読むのが課題だとは、なんて喜ばしいことだろう。ああ、役者冥利に尽きるというものだ!

初期のころにワトソンがホームズの外見的特徴に関するすばらしい描写をしている;「彼を観察しているといやおうなしに思い出すの が純血種のよく訓練されたフォックスハウンドだ。懸命になってクンクン鳴きながら途切れた匂いを再び嗅ぎあてるまで獲物が潜んで いるあたりを行きつ戻りつ駆け回るのだ。」
のちにホームズは自分を「狼ではなく犬だ」と表現しており、匂いをつけていくときの興奮しきった犬の一面を持つとともに一方では 221Bの暖炉のそばでの無気力にふさぎ込んで夢見るような振る舞いでもう一つの犬の姿を見せるのである。

ホームズ聖典にはたくさんの犬が登場する。夜に吠える犬、吠えない犬。「グロリア・スコット号」ではホームズは大学時代にブルテ リアに噛まれて治るのに10日かかったということが明らかになる。あの印象的な雑種犬のトビーもいる。半分スパニエルで半分ラーチ ャー(*狩猟用に仕込んだ雑種犬)の心強い味方。(確かあれは四分の一がグレイハウンドとアイリッシュウルフハウンドじゃなかった かな? 集中しろ、カンバーバッチ!!)
ともかく、ラーチャーにかけあわされたスパニエルのことよりも(物語の展開から考えると…この例では犬のサイズが優性だったよう だ)ホームズは「ロンドン中の刑事よりもトビーの助けの方が欲しい」と思ったことを考えるんだ!

しかし、ホームズ聖典の中でほんとうに重要な犬は一匹だ。それはダートムーアの霧の中に禍々しい歩みを進める——バスカヴィル一 族にかけられた古の呪いだ!

ぼくはこのすばらしい話を最初に読んでもらったのを覚えている。学校の先生だったか、人を楽しませるのが上手だった父だったか、どちらかにだ。怪奇の部分に芯から震え上がったけれども、きっとわれらがヒーローのホームズが倦むことなく論理で突き詰めて迷信の蜘蛛の巣を吹き払ってくれるだろうと期待した。
だが、待てよ! ドクター・ワトソンがダートムーアへ行くことになった…それも一人で! 最近のぼくたちのBBCのSHERLOCKでは ロンドンを離れロケーションで数日を過ごした。物語のもうひとりの主役ともいうべきダートムーアに出会うために。
それは呆然となるほどの光景だった。なだらかに起伏する丘や谷が急に広漠として荘厳なムーアに変わっていく。日没の薄れゆく日 の光の中にその景色がどこまでもずっと続いていく。日が沈むとまたたく間に気温が下がり、あたりの景色はどことなく人を寄せ付け ないよそよそしく荒れ果てたものに変わる。これこそ、コナン・ドイルが巧みに急峻な岩山と霧の悪夢の風景に作り変えた、寂寥感あふ れる凄絶な美しさあふれる場所なのだ。
物音が実際より近くに聞こえる。あなたは伸ばした手の先の闇の中に潜むものにおののいて胸がぎゆっと締まる。そして、彼方から吠え声が…そのおぞましさと救いのなさに背筋が凍る。飢えと復讐に満ちた獣の咆哮!

あなたが本書を初めて読むのなら、ようこそ。これから本の中でスリルが待ち構えるていると思うとあなたがうらやましい。旧友に会いに 戻ってきたのなら、このようなことで時間を取らせてしまったことをお詫びしたい。
さあ、紳士淑女の皆々様! シャーロック・ホームズの扱った事件の中でも最も有名で愛された、恐ろしくもぞっとするほど美しい物 語、バスカヴィル家の犬でございます。

    これでよかったかな? もう一度やらせてもらえる? 
    え、これは撮影と違うって…?
    ああ、なんてこった!

ベネディクト・カンバーバッチ
(*は訳者による注)


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