my reading report

  • ■ Book Shelf

relative sites

Powered by Six Apart
Member since 07/2006

« STAR TREK XI | Main | 生姜飯のススメ »

遅れてきたカフカ

0907kafka七月になってしまいました。気がつけば先回更新してからはや一カ月!
全て世は事も無し……の毎日を送っていたという証ということにしておきます。

毎週参加している勉強会のメンバー有志で5月から翻訳のワークショップを始めました。
かなり格好よく聞こえますが、要するに、それぞれが好きな原文を持ち寄って毎月の課題を決めて、同じ箇所を試訳する、それを最終週に持ち寄ってコーヒーを飲みつつ全員で読み合わせ、疑問点、問題点を話しあうという、気まぐれお楽しみの翻訳勉強会です。
去年まで頂いていた翻訳の仕事が一段落してから、これといって訳すものもなく、一人でやっていてもモチベーションが上がらないというのが手近な理由なのですが、だめ元で勉強会メンバーに話をしたら、たくさんの方が乗ってくださった……というわけです。
〆切り無し、実験的な訳をするもよし、かなり自由に想像力を働かせることができます。課題は、内容を正確に伝える事が第一義である政治、経済、科学的な文章はちょっとご遠慮ねがって、翻訳の技術を高めるのが一番の目的なので、どうしても文芸物偏重になりますが、それはそれで大いに結構なこと。どんな課題が出されるか予想もつかないのが、これも楽しみ。自分の好みとはまた異なった作品に触れられるので、サプライズであり、心ときめくものがあります。

5月の課題は、言い出しっぺのわたしの独断でLoise Pennyの"Still Life"第一章冒頭部分を。
静かなカナダの小さな村で起こった殺人事件、捜査に村を訪れる殺人課の警部の物語です。訳す部分は短かったのですが、いきなり事件の真っ直中に放り込まれるように始まるために、後の部分を読まないと人間関係がわかりにくく、したがって訳に適した言葉を選びにくいという難がありました。またカナダの警察組織、モントリオール郊外の地勢など調べることも多くその辺りも大変でした。
読み合わせをしてわかったこと。本当に短い、単語にしたら4,5語の文章でさえ、まったく同じ訳が出てこない!ということ。つまり5人の翻訳者がいたら5通りの訳ができるということです。あたりまえの様に聞こえますが、一つの原文に対して訳が多数あり、しかも出版された訳本の読者にとって、読む機会があるのはそのうちのたった一つだということ、これは著しく不公平なことに思われます。
だから原文を読まねばならないという原文主義を振りかざすわけではないのですが、翻訳は、訳者の知識、言語センス、原作に対する解釈の深さ、思い入れなど、たくさんの要素が絡み合って実に多様な表現形式をとる可能性があることを忘れてはいけないと、改めて考えさせられました。

つい昨日終えた6月の課題文は今ベストセラーチャートのトップにある「1Q84」の作者、村上春樹の「海辺のカフカ」の英訳版でした。
これはまた面白い挑戦です。日本語の原作を英訳したものを再度翻訳するのです。もちろん原作に目は通しません。あくまでも英語→日本語の翻訳というプロセスを経て、新たな日本語版を作る試みです。
幸運な事に、というか、不勉強なことに、というべきか、メンバーのだれも海辺のカフカを読んだことのある者がいなかったのも、まったく先入観無しに作品を読み訳すという作業が楽しめる一因になりました。
訳してみて感じたのが、日本語がベースになっている英語はネイティブの英訳にもかかわらず、どこかに日本語の響きが残っているということです。おそらく文と文の繋がりの構造が(つまり考え方が)日本的なのだと思います。矛盾しているように聞こえるかも知れませんが、(村上氏の文章の特徴でもあるのですが)、ある意味日本語独特の曖昧さが少なく、主述の関係が明確でセンテンスが明解なので、大幅な語の追加や文構造の変換を行わなくても素直に英訳しやすい文章なのだと思います。ゆえに、日本語の響きの残る英文ができあがったのではと愚考してみるのです。この英文をネイティブが読んだ時にどのように感じるか、それを聞いて、われわれが原作を読んだ時に感じるものと、どこが似通っていて、どこに相違があるのか、いま一つ踏み込んだ追跡調査をしてみたい気分になります。
最後に数名のメンバーの、それぞれに個性のある翻訳をまとめて、原作と対照読みをしようとおもいますが、比較して(原文といかに近いかというあたり外れではなく)翻訳というフィルターを2回かけるとどれほど変わるか、もしくは変わらないか、それを見るのが待ち遠しいのです。
ちなみに7月のお題はJodi Picoultの"Nineteen Minutes"です。最初のページ半分で、もう引き込まれそうな勢い。これまた読むのが楽しみです!

Comments

いつも勉強熱心な姿に感心しています!
人によってそれだけ違いがでるもんなんですねえ。
やっぱり翻訳って難しいし、責任のある仕事だと思います。
でも、お互いの違いを知ることで、更に知識が向上していく素晴らしいチャンスですよね!!
追跡調査の結果がどうなったのかブログで紹介して頂ければ~と思います。

贅沢ですねー! 二つの言語を知っているからこそできる「遊び」(あえて勉強ではなく遊び!)って、深く身体と心に染み入って、ますますHelvaさんを高みに連れて行ってしまいそう。
わたしが漫然と読んでいる翻訳本に、訳者の個性が反映されているんですね!

>マクノスケさん
勉強会というのもおこがましく、同好会といいかえなければならないかも。
訳す人の言語センスというのがてきめんに出てきますね。それはもう面白いくらいです。
わたしなら絶対こんな風にしないだろうとか、へえ、こんな洒落た訳があったんだとか。
もちろんとんでもない誤訳もあって、それはご愛敬です。
間違っても恥をかかない、遠慮せずに意見が言える、そういういい仲間を持ったことが幸せだなあと思っています。
調査結果とまでいかなくても、面白い発見があればこちらでもご紹介しますね~♪

>onionさん
本当に「遊び」!ですw
何よりやってて楽しいのが一番です。
たかがわずかの違いでも
「彼は見た」「かれは目をやった」「○○(実際の名前)は見やった」「○○は眺めた」「~が目に入った」「~が目に飛び込んできた」「~が見えた」
こんなバリエーションが考えられるし、この些細な違いが本一冊分に累積すると、まるで違った本になってしまいかねませんよね。
映画の字幕なんかでも同じ事が言えそうですね。
翻訳者には言語に精通しているだけではなくて、原作を正当に解釈できる能力が求められるようです……って、無理っぽいw

Post a comment