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父の栄光、母の城

Photo思い出は時がたつほど摩耗していくものではないようだ。甦るたびに思い出からは不要な些末や生々しさがそぎ落とされて、うつくしい、軽く透き通ったものだけが残っていく。
晴れた日に水の中を覗き込んだときに、不意に現れる魚のように。魚がついと動いて底から巻き起こる雲母のかけらのように、ひとつひとつの断片が光を反射してきらきら光る。思い出とはそんなものなのだろう。

表題の映画は、少年マルセルの南プロヴァンスでの夏の日の思い出。小学校教師で融通が利かないほど生真面目な父。こよなく母を愛し、子供達を山に連れ出し、不器用な手で行った狩猟で思いもがけない大殊勲を達成した父。
少女のような母、若く優しい、はかなさを感じるほどに美しく線の細い母。
都会を離れ向かったプロヴァンスの田舎の山荘、山野を駆ける少年との出会い、家族の絆を感じた夏休み。
マルセル・パニョル原作による「少年時代の思い出」を映画化した「マルセルの夏」と、2部と3部を映画化した続編「マルセルのお城」──「プロヴァンス物語」
最初にいつ見たのか記憶が曖昧です。映画館ではなかったことは確か。それも中途半端に見たので一作目は余り記憶になく、二作目の最後だけがはっとするほど強い印象を残した映画でした。
先日偶然にBSで続編が放送されたのを録画。そのあとDVDを探したところ、古い映画でしたが幸いにも在庫が見つかって無事入手できました。
これは大人になったマルセル少年=「わたし」が少年時代の幸福なひとときを回想する物語です。
1904年、マルセーユに住むマルセルの一家は病弱な母に田舎の空気がいいと南プロヴァンスに別荘を借ります。石灰岩の丘陵地のそばで近くには泉が湧く小さな村があります。日頃勉強に明け暮れる少年にとって、すべき事がないという自由とセミの声に満たされた最も美しい日々が始まります。
前編は原題は全編が「父の栄光」、狩猟などしたこともなかった父があることで素晴らしい獲物を捕らえ、村の英雄になるお話。後編は「母の城」。二作で一つの物語なのでどちらが欠けてもいけないのですが、特に続編が秀逸です。
二作目はこんな風に始まります。
夏が終わり街に帰ったマルセルでしたが、あの山に再会するのに夏まで待つことなどできません。しかも奨学生試験の学校代表になってしまって勉学に追いかけられる日々です。そこへ母の提案で毎週末に山へ出かけることになります。
有頂天になったマルセル、もちろん家族も大張り切りなのですが、なにせ遠距離です。鉄道と馬車を乗り継いだあげく、最後は週末の家財道具を背負って村から9キロも歩かなければなりません。というのもシャトーと呼ばれるお屋敷の私有地を迂回して行かなければならないからです。
しかし、偶然が幸いして、村から山荘へ行く運河沿いの道の存在を知ります。ところが運河は私有地の中を縫って走り、私有地相互の間には鍵のかかった扉が行く手をさえぎります。私有地の番人に見つかったら追いかけられる、それどころか捕まれば公務員としての父の立場さえ危うくなる……それでも片道2時間の時間の節約の誘惑には勝てませんでした。ついに父は鍵を使います。
一つ目の屋敷の老貴族と二つ目の屋敷の小作人は優しい人たちで彼らの通行を見逃してくれるのですが、三つ目の屋敷の門番と番犬がくせ者でした。母はそこを通るたびに死にそうなくらいに怯えて震えるのでした。
この運河沿いの道を通るスリルを縦糸にして、マルセルの初恋、少年との友情、たくさんの優しい人々との出会いが横糸にからみ、二度とこないきらきら光る少年時代の一夏が過ぎていきます。
感動を呼ぶのが最後のエピローグです。
時の流れは容赦なく、家族が、友人がマルセルの前から消えていきます。成人して映画関係の仕事についたマルセルがプロヴァンス地方に映画都市を作る構想をたてて、地所を買います。
忘れていた日々が一瞬にして甦るみずみずしさ、美しい母のおもかげ、いまだ少年をどこかに宿しているマルセルの心の痛みが、軽やかに語られて物語は幕を閉じます。

おぼろげにしか覚えていなかったストーリーですが、わたしの記憶の中にあった物語は映画の一番美しい部分をつなぎ合わせた物語だったということに驚かされます。
「美しい思い出」をテーマにした映画が、わたしにとっても「美しい思い出」であり、今回その全貌をしっかり余すところ無く見たわけですが、抱いていたイメージを裏切られることなく、むしろ抜け落ちていたパズルのピースがすべてあるべき場所にぴったりはまったような満足感を覚えました。漂白されて美しくなった思い出が、もとの姿を取り戻して、さらに光を放つということは、そう再々あることではありません。そういう意味で、いまとても幸福だと感じています。


Comments

思わずエンタメ映画ばかり観てしまうので、この映画は未見ですが、Helvaさんの文章を読んでいて猛烈に観たくなりました。
文章に刺激されたのか、昔、父が観てきた映画を語ってくれたのを思い出しました。ホラー映画だったのですがw、後で本編を見た時より、話を聞いていた時の方がわくわくしたなあ、なんて。
映画の思い出の話が、わたしの思い出を掘り起こしてくれました。


もっと古い映画かと思っていたのですが1990年制作でした。
思い出といっても辛気くさい雰囲気映画ではなくて、コミカルでテンポもいいので、機会があったら是非ご覧下さい。
期待は裏切られないと思いますw

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